提言など
2025/10/15
文部科学大臣宛「2026年度概算要求後の要望書」

2025年10月15日

文部科学大臣 あべ俊子 殿

全国大学高専教職員組合
中央執行委員長 笹倉 万里子

2026年度概算要求後の要望書


 貴職におかれましては、文部科学行政、高等教育の充実にご尽力されていることに敬意を表します。さて、私ども全国大学高専教職員組合(全大教)は、今年6月19日に「概算要求期にあたっての要望書」を提出し、7月31日に貴省担当者各位と会見を行い、率直な意見交換を行いました。
 概算要求にあたっては、私どもの要望にもご配慮の上、また、「経済財政運営と改革の基本方針2025」に「物価上昇等も踏まえつつ運営費交付金……等の基盤的経費を確保する」と明記されたことを踏まえ、増額要求を行っていただき、引き続き、高等教育研究機関のあるべき姿を実現するための予算獲得にご尽力いただいていることと拝察いたします。私どもとしましても、同様の目標に向けて努力しているところです。
 つきましては、会見の開催をお願いし、下記Ⅰについて要望・意見交換を行いたいと考えております。また、下記Ⅱにつきまして文書でご回答いただければ幸いです。
 平成16年に国立大学が法人化されてから20年以上が経ちました。この間、日本の大学に起こったことをひとことで言うと、研究力の低下だったというのが私たちの実感です。これは単なる感想ではなく、論文公刊数の減少、とくにインパクトの高い論文の激減といった客観的なデータとして現れてきています 。こうした現状認識については、貴省の皆さまも基本的に共有されていることと思います。個別の論点については意見の相違はあると思いますが、現在の大学の状況において「なんとかしないといけない」という思いは共有できるのではないかと思います。
 今回の会見では、当面の課題についての要望のほか、第5期中期目標・計画期間も見据えた教育研究の在り方等について、また、貴省の皆さまはどのような方向性をもって高等教育行政を舵取りしていこうとお考えであるか等について、忌憚のない意見交換をさせていただきたいと存じます。専門部署の垣根を越えて、個人的な夢や理想を含めて率直に語り合う機会にしたいと、勝手ながら考えておりますので、若手・中堅の方にも是非ご出席いただければと存じます。
 よろしくお取り計らいいただきますようお願い申し上げます。 

Ⅰ.要望・意見交換をお願いしたい事項
 1.来年度以降の運営費交付金の充実と、今年度の予算措置について
 令和8年度の概算要求では、貴省のご尽力により、運営費交付金について人件費や物価の情勢をふまえて増額要求となったことに感謝申し上げます。引き続き、予算編成過程においても増額にむけてご尽力をお願いいたします。
 現下の課題として、国立大学等では人件費の増加や物価の高騰により、大変厳しい財務状況となっており、昨年度は人事院勧告水準の給与引上げができない国立大学が多く生じました。そうした事態は今年度さらに増えるのではないかと危惧され、令和7年度においても緊急の予算措置が必要な状況にあります。別途「令和7年度における国立大学等への予算措置に関する要望書」の通り、十分かつ緊急の予算措置を要望いたします。

2.第5期中期目標・計画期間における運営費交付金の在り方について
 国立大学法人等の機能強化に向けた検討会「改革の方針」(令和7年8月29日) では、
① 基盤的経費の配分額について中期目標期間中の見通しを立てやすい明快な配分ルールを構築すること
② 各法人が掲げるミッションや機能強化の方向性に応じた取組の成果について、指標等を基に何らかのインセンティブを持たせる仕組みを入れること
③ 最低限必要と考えられる教育研究をベースとした経費については、社会経済の状況の変化に左右されず活動できるよう、物価等の変動に対応させる観点も含め、安定性をより向上させた仕組みとすること

といった提言がなされています。 
 ①と③については私どもも認識を共有いたします。②については、そのような管理ではなく、各大学の判断で自由に運営できるほうがよいと考えます。人間が持てる力を最大限に発揮するのは、自分が信頼され、自分の判断が尊重されていると感じたときです。信頼関係にもとづく協力体制だけが、物事を真に改善します。そうした観点から、貴省として、大学を信頼し、大学との信頼関係の醸成をいっそう進めることが肝要ではないかと考えます。

3.学生支援について
(1)令和7年度の日本学術振興会特別研究員の採択率はPDで約23.9%、DC1とDC2は14%台となっております 。令和8年度については、さらに採択率が低下していると学生などから聞き及んでおります。博士課程への進学を後押しするには採択率を大幅に引上げることが必要と考えます。

(2)SPRINGの生活費支援部分の留学生への支給停止については、先の会見でも意見交換させていただいたところですが、留学生への支援の充実はもとより、留学生を含む多様な学生・若手研究者が交流することで、日本の研究力の向上や社会への貢献につながるものと考えます。多面的な留学生支援策が必要だと考えます。

(3)今年度から東京大学が学費の値上げを行い、現在、多くの国立大学が学費の値上げを検討している模様です。背景には国立大学の厳しい財務状況があります。高等教育を受けることは基本的人権であるという原則に立ち返り、運営費交付金の充実を伴った学費の無償化について国が率先して動くべきだと考えます。

4.「学問の自由」と民主的な大学運営について
「学問の自由」とは、「研究者が自分の好きなことを研究する自由」にとどまらず、「学問の世界のことについては学者が決めていく」ということを含みます。科学研究においては、一個人の主張が無批判に受け入れられるとは限りません。ある科学者個人の主張は、同僚らによって検証され追試され、再現できなければ否定されます。「学問の自由」とは、そうした事実と論理に基づいた合意形成プロセスが、政治や産業界等の意向によってゆがめられてはならないという意味です。こうした観点からは、現状の日本の大学では「学問の自由」や民主的な大学運営が大きく揺らいでいるのではないかと危惧しています。
 具体的には、学長選考において教職員の意向を聴取する機会がない、聴取されたとしても結果に反映されない状況があること、教授会の審議事項が減少して単なる報告の場になっていること、国際卓越研究大学や特定国立大学における「運営方針会議」のメンバーに企業の役員が多く名を連ねていることなど、多くの懸念事項があります。 

Ⅱ. 事前に文書にてご回答いただきたい事項
 1.国立大学法人等の給与水準についての調査結果

 令和6年度、人事院勧告水準を維持できなかった国立大学等が多数あります。その多くは、「遡及適用しない」「ボーナスの支給水準を抑える」といった対応でした。
 私どもとしても加盟組合を対象に調査を行っているところですが、貴省において国立大学等の令和6年度の人事院勧告の実施状況について把握されていましたら、資料等をご提供いただければ幸いです。

以上

全国大学高専教職員組合中央執行委員長