提言など
2024/06/19
文科大臣宛「2025年度概算要求期にあたっての要望書」

2024年6月19日

文部科学大臣 盛山正仁 殿

2025年度概算要求期にあたっての要望書

全国大学高専教職員組合
中央執行委員長 笹倉万里子

 貴職におかれましては、文部科学行政、高等教育の充実にご尽力されていることに敬意を表します。2025年度概算要求期に先立ち、大学をはじめとする高等教育研究機関のあるべき姿を実現するための予算配分および高等教育政策に関して、下記のとおり要望いたします。また、会見に先立ち、事前にご教示いただきたい項目について別記いたしますので、そちらへのご回答もよろしくお願いいたします。
 今春になって、国立大学授業料の値上げをめぐる報道が相次いでおります。運営費交付金の減額により国立大学等は財政難に陥り、教育研究力の低下が問題となっておりますが、私どもとしましては、国立大学等の財政難への対応について、学生の授業料に転嫁するのではなく、運営費交付金の充実により保障するべきだと考えております。これまでのような運営費交付金の減額や控除と再配分を改め、必要額を充分に保障した上で、さらに各国立大学等の意欲的な取り組みを支援するようお願いいたします。
 私どもでは、4月に文教関係の国会議員へ要請を行い、運営費交付金の増額を含む高等教育予算の充実を要望したところです。高等教育の発展にむけて関係者が協力していくことが重要と考えており、貴職におかれましても、引き続き、特段のご尽力をお願いいたします。



1.国立大学法人運営費交付金の算定方法を抜本的に見直すこと
1-1.これまでの運営費交付金制度では、昨今の物価上昇・人件費上昇の局面に対応できません。日本の研究力向上のためには、研究者の増員、ないし少なくとも減少を食い止めるための人件費配分が必要です。また、国立大学の法人化によって必要となった経費分が担保されておりません。高度化する高等教育と研究の国際水準と肩を並べるための第一歩として、来年度、まずは、国立大学法人化当時の予算額である1兆2800億円を措置したうえで、その後も高度化とインフレなどの社会情勢に対応できる予算額を確保することを要望いたします。

1-2.現状では、運営費交付金の「共通指標部分」は、運営費交付金の一部が評価によって傾斜配分されています。これを改め、基本的な教育研究に必要な予算額を保障したうえで、さらに意欲ある大学を支援する制度設計に改善することを要望いたします。

1-3.「共通指標部分」では、国立大学の教育研究の改善とは関係しない項目(人事給与や会計など大学のマネジメント関係の指標)が評価指標となっております。当面、評価配分を継続するとした場合であっても、日本の高等教育研究の発展という目的に対して合理的な評価項目とされることを要望いたします。

1-4.国立大学の学費値上げの動きが目立ってきております。学費は基本的には各国立大学法人等が決めることではありますが、その標準額や上限については省令で上限が決められております。当初、標準額から10%以下とされた上限額は、2007年には20%までとされました。そうした制度設計にあって、2015年10月26日の経済財政諮問会議で財務省が国立大学の学費値上げを提案し、2020年の「国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて~社会変革を駆動する真の経営体へ~最終とりまとめ」では「授業料の自由化の是非」が検討されました。
そうした流れの中、今年3月27日、中教審「高等教育の在り方に関する特別部会(第4回)」にて伊藤公平・慶応義塾長が「国立大学の学費を150万円程度に引き上げるべき」という提案を行いました。それに呼応するかのように、5月15日に東京大学が学費の10万円程度の値上げを検討していることが報道され、翌16日には自民党の「教育・人材力強化調査会」が「値上げも視野に入れた適正な授業料の設定」等について検討するとした提言をまとめたことも報道されています。
2004年の法人化以降、運営費交付金は減少し、国立大学の財政は逼迫しています。その負担は学生に転嫁するのでなく、運営費交付金の増額によって賄うべきと考えます。貴省におかれましても、そうした原点に立ち返ったご対応をお願いいたします。
なお、私どもが最も危惧するのは、授業料の値上げが一巡した後に、国立大学の授業料の原則自由化が法定され、それに合わせて運営費交付金が大幅に減額されることです。貴省におかれましては、そうした事態が現実のものとならないように最大限の努力を行われますことをお願いいたします。

2.学生支援
 昨年12月に閣議決定された「こども未来戦略」では、高等教育費の負担軽減として、2024年度から、「貸与型奨学金の減額返還制度を利用可能な年収制限の引き上げ(325万円から400万円へ)」、「授業料等減免及び給付型奨学金の多子世帯や理工農系の学生等の中間層(世帯年収600万円)への拡大」、「大学院(修士)の授業料後払い制度の創設」、2025年度から、「多子世帯(所得制限なし)への授業料等の無償化」が挙げられています。 
 こうした学生支援策の拡充は望ましいものと考えますが、同時に、前項で記したような授業料値上げの動きが出ていることを強く危惧します。
 ご承知の通り、現時点において国立大学の初年度納入金の標準額は81万7,800円(うち授業料は53万5,800円)です。これに加え、学生個人用パソコンの取得義務化などで数十万円が必要となっている大学が多くなっています。現状ですでに大学進学は学生に対して大きな経済的負担を強いるものとなっています。
 そもそも学生は、憲法が規定し、国際人権規約も認める「教育を受ける権利」を持っており、国家はその権利を保障する義務を負います。国立大学学費のさらなる値上げは、国際人権規約第13条2(b)(c)の定め(高等教育の漸進的無償化)に逆行するものです。「国家には高等教育を受ける権利を保障する義務がある」という原点に立ち返り、私立大学も含めた大学学費の無償化にむけて努力を行うべきと考えます。
 貴省におかれましても基本的な考えを私どもと共有されていることと拝察します。ご尽力をお願いいたします。

3.国立高等専門学校運営費交付金の算定方法を抜本的に見直すこと
3-1.国立高専は独立行政法人として運営費交付金に毎年度効率化係数がかけられています。貴省のご尽力により第5期中期目標・計画期間において緩和が行われたことに感謝を申し上げます。しかしながら、これまでの運営費交付金の削減により、学生の教学環境や教職員の人材確保に大きな影響が生じています。緩和されたとはいえ、今後も効率化係数による運営費交付金の削減が続くとすれば、国立高専における教育研究の質の維持は困難となります。国立高専における教育研究は内外から高い評価を得ており、いっそうの充実をはかるために、効率化係数を廃止し、運営費交付金の増額にむけて舵をきることが必要を考えます。
来年度、まずは、法人化当時の予算額に戻して措置したうえで、その後も高度化とインフレなどの社会情勢に対応できる予算額を確保することを要望いたします。

3-2.部活動の地域化を推進する仕組みを構築し、それを早急に実現するための予算を措置することを要望します。予算措置に際しては、地域化された部活動を担う者に対する賃金水準について、同業民間の水準を踏まえることを要望いたします。

3-3.寮宿直業務の外部委託化を推進する仕組みを構築し、それを早急に実現するための予算を措置することを要望します。予算措置に際しては、寮宿直の委託を受ける者に対する賃金水準について、同業民間の水準を踏まえることを要望いたします。

4.公立大学の運営費交付金の算定方法を抜本的に見直すこと
 地方交付税における公立大学に係る基準財政需要額の算定方法においては、物価高等を適切に反映して単位費用および補正係数を上方修正すること、また、総体として公立大学に係る予算の増額を総務省に働きかけることを要望いたします。

5.大学共同利用機関運営費交付金の算定方法を抜本的に見直すこと
 大学共同利用機関運営費交付金の基盤的経費の削減が続く結果、施設や保管資料の保全・維持管理や人材の確保などに困難をきたしています。既存施設や資料を継続的に利用者に提供することは大学共同利用機関法人として重要な責務の一つでありますが、安定的な基盤的経費なしに持続的な研究活動は困難です。また、人件費に占める競争的経費の増加によって、研究者・技術者の雇用を不安定にした結果、人材の流出のみならず、安定的な人員の確保にも困難をきたしています。さらに、最近の円安と海外のインフレ傾向の影響を受けた結果、国際的な研究活動を継続することが困難な状況となっています。大学共同利用機関運営費交付金の基盤的経費の増額を要望いたします。

6.引き続き、研究者の安定的ポストの増加と教育研究条件の改善を行うこと
6-1.これまでの研究者の雇用対策の対象は若手が中心であり、また雇用期限付きのポストの増加という形で行われてきました。これを改め、すでに何度も有期労働契約を繰り返した中間年齢層・高年齢層も含めたすべての研究者を対象とし、安定した雇用の増加を目標とする政策に転換することを要望いたします。

6-2.これまでの研究者の雇用対策は、大学でのポスト増を中心とするものでしたが、昨年度、博士号取得者を採用した企業への優遇税制などの制度が設けられ、今年度は、「博士人材活躍プラン~博士をとろう」といった施策が実施されております。博士の企業採用を増やし、博士課程進学のインセンティブを高めるという取り組みの方向の妥当性については認識を共有するところです。引き続き、博士号取得者の民間企業への就職支援のための措置を充実させることを要望いたします。

6-3.これまで、「貴法人における無期転換ルールの円滑な運用について(依頼)」等の通知を出されるなど、研究者雇止め問題への貴省の取組に敬意を表します。これまでの全大教と貴省との会見におきまして、継続的に良質な調査が必要との認識をお示しいただいております。引き続き、有期労働契約の研究者の無期雇用への転換に向けた取組を要望いたします。

6-4.教員が教育研究に専念できるように、教職員の増員を含めた労働環境の改善を進めていただくことを要望いたします。

7.地方大学の振興のための予算について
 「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」について、2023年度採択の12大学にそれぞれ50億円前後の交付が決定されたと伺っております。採択された大学の多くは、地方大学の中でも大規模校であり、採択された内容もいわゆる「役に立つ科学技術」といったものが中心となっております。日本が「文化立国」をめざすのであれば、引き続き人文社会科学の振興にもご配慮をいただくことを要望いたします。
 また、地方大学の振興は、「国民が地元で教育を受けられる権利を保障する」「日本の大学全体の多様な研究の底上げ」というスタンスで行っていただくよう要望いたします。

8.定年年齢の引き上げの着実な実施にむけて必要な予算措置を行うこと
 多くの国立大学等で定年年齢の引き上げにむけた検討が行われております。しかし、そのための財政措置がなされていないことから、給与水準を抑制した独自制度とする大学や、現時点での引き上げを見送る大学もあります。また、国家公務員の制度に準拠した場合、職務が同様であるにもかかわらず給料が7割となるなど、大きな課題を残したものとなっています。各大学等において、定年年齢の引き上げの確実な実施と中堅・若手層の昇任機会や新規採用の確保ができるよう必要な予算措置を要望いたします。

9.施設整備費を増額し施設整備の充実を図ること
 施設及び設備の老朽化が進み、教育研究に支障が生じています。また、災害が生じた場合の施設の復旧に係る経費も十分に措置されているとは言えない状況にあります。日本の研究力向上のためには、大学では常に最新の設備への更新が求められております。各大学等の施設整備費および災害時の緊急的な復旧に対応するための予算の充実を要望いたします。

10.大学自治を尊重した自律的・自主的な大学運営の確保
10-1.現状の国立大学法人法の規定では、この間に監事の権限強化を目的とした改正がされたものの、国立大学の組織形態は、教職員の充分な議論をふまえた牽制機能を欠いたまま学長に権限を集中させるという、いささか特異なものとなっております。私どもとしては、日本私立大学教職員組合連合や全国公立大学教職員組合連合会と連名で「学校教育法改正提案」を行い、学長と理事会と教授会との「三権分立」的な制度設計を提案しました。そうした提案を参考にしていただき、今後の大学の発展に真に資する制度設計が実現するようご尽力いただくことを要望いたします。

10-2.昨年12月の国立大学法人法改正により、大学ファンドによる支援を受ける国際卓越研究大学のみならず、一定規模以上の大学については「運営方針会議」を置くこととなりました。今年1月15日付の貴省よりの施行通知は、国会における審議や附帯決議を踏まえた内容となっていると理解しております。とはいえ、これまでの国立大学に対する基本政策は、現場の意向を排除してトップダウンで運営を行うという色彩が濃く、今回の法改正もそうした流れの中に位置づけられます。学問の自由と大学の自治は学術の発展の大前提ですので、現場を信頼し自由な発展に任せる方向に、基本政策を転換されることを要望いたします。

10-3.奈良教育大学附属小学校での「不適切な教育」報道に端を発し、多くの児童が傷つき、保護者は不信や不安感が募り、そして複数の現場教員が望まない出向処分を受けました。その対応にあたっては、設置者である大学が責任を持って現場への十分な配慮を行わなければならないと考えます。教員や保護者とも十分に議論を重ね、児童にとってより良い教育環境を取り戻せるよう要望いたします。
 各附属学校はこれまでに、各国立大学法人の自治のもと、長い年月をかけて地域に根差し、先導的な役割を果たす特色ある学校が作り上げられてきました。児童生徒たちにとっての学びの保障とより良い心身の発達が進むためには何が真理なのか、それが現場の教員自治のもとでなされるよう、自律的、自主的な学校運営環境の保障を要望いたします。

11.運営費交付金の増額へ向けた、諸団体との連携と社会へのアピール
日本学術会議や国立大学協会をはじめとする高等教育・学術関連諸団体と連携し、運営費交付金の基盤的経費の削減による大学等の厳しい現状と、その十分かつ安定的な措置の重要性について、引き続き積極的にアピールすることを要望いたします。
 とくに、現今のインフレ傾向と社会的にも必要な賃上げの傾向の中でも、国立大学法人が社会からの付託に応え続けることができるよう、運営費交付金の抜本的な見直しにむけた機運醸成に努力されることを要望いたします。

以上

全国大学高専教職員組合中央執行委員長